
ストレイジ・オーバー
「お兄ちゃんがへん」
そんなことはない、と俺はお茶を濁すが、妹は食いさがる――。
妹の匡子は、三年前から同じ〝八月二十九日〟を繰り返えし過ごしている。記憶が更新されない匡子の眼には、成長した俺の姿や、季節の変化が奇異と映るのだろう。医者は記憶の奇病だと言った。いろいろ治療を試みたが、すべて芳しくはなく、出口の見えない日々を俺も匡子も送っていた。
そんなある日、海外出張中の親父の行方がわからなくなっていると知らされた。しかも、失踪の原因は妹の病と関係があるかもしれないというのだ。
親父の失踪と、妹の病――共通点は「記憶使い」と呼ばれる能力だという。
この事態――俺になにが出来る!?