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「科学的に正しい」の罠

千葉聡:著者

「”物語られる”科学を切開し、縫合する一冊!!」

「神話後の世界では、愛も憎も科学を装う。
歴史を剔抉した時、
真と善と美が分裂する…!
…さて我々は、いかにして違うまま、再び融合できるのか?」
――魚豊(『チ。―地球の運動について―』『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』)

「科学的な正しさ」とは何か?
もっともらしい科学にだまされないための考え方

私たちが知らず知らずのうちに信じてしまう「科学的な正しさ」の罠を明らかにし、だまされないための解決策を示す。『歌うカタツムリ』(第71回毎日出版文化賞)、『ダーウィンの呪い』(2024年新書大賞10位)で注目される進化学者が描き出す、科学の過ちと今に生きる教訓。

疑似科学や陰謀論の歴史は古い。しかしこれらは反権力または自然派による呪術的・神話的なものが多く、拡散の規模は一部を除き限定的だった。
ところが近年、一見「科学的に正しい」と感じられる、巧妙な事例が増えている。SNSや動画サイトを利用して、科学的な専門用語、画像、データを駆使して科学としての客観性を巧みに装う。心地よさ・怒り・共感が絡みついた科学、「測れるものだけが真理」という数値への過信、新しい科学と技術への信仰、事実は一つではないという「相対主義」の悪用、自分は客観的だと信じる「価値中立」という思い込み……。

本書は、事実が巧妙に偽装される現代における科学的な事実との向き合い方を、豊富な事例とともに示す。科学に対する考え方と世界の見方が変わる1冊。

第1章 “科学的な正しさ“の罠
危機の「予防」は「陰謀」とされる/デジタルライフの礎を築いた偉大な科学者は差別主義者だったのか/心情で決まる正しさ/トランプ政権による科学の支配/「科学的に正しい」を巧妙に装う時代

第2章 なぜ事実はゆがめられるのか?
愛国オカルト科学の襲来/大喝采の革命的“農業技術”/「環境が個体をつくり変える」というニセ生物学/博士号なし・論文1本のみの“天才科学者”誕生/遺伝子は禁止用語?/労働者の中から生まれた“裸足の救世主”/高い知名度と実際の成果の落差/KPI(目標数値)達成の偽装/世界トップの生物学強国からの転落/役立たずの基礎科学?/測れるものだけが真理/すり替わる「正しい科学」と「陰謀論」/SNS・動画配信が増幅させるメシア(救世主)効果

第3章 事実から正しさは生まれるのか?
ドーキンス大炎上/生物学的な事実に人間は従うべき?/統計学の基礎は優生学から生まれた/「犯罪者の家系」が「劣等な血統」である証明/米国が生んだ「ヒトラーの優生学」/ヒュームの禁則と自然主義的誤謬/優生学者と同じ誤りを犯す優生学批判者?/最も危険なのは「価値中立」という思い込み

第4章 なぜ正しいと思い込んでしまうのか?
学力格差は遺伝か、環境か?/「血は争えない」のか?/暴力や犯罪をもたらす遺伝子/MAOA-L遺伝子と衝動的反応の実際の関係/左利きは9年も短命?/ゲノム解析が示す左利きの理由/ヒトの適応戦略/イデオロギーとしての人種科学

第5章 “客観的”な事実はあり得るのか?
「カンブリア爆発」は爆発ではない?/なぜ「爆発」神話が生まれたのか/科学の言葉が現実を作り変える?/私たちは今、六度目の大量絶滅の只中にいる/絶滅は本当に始まっているのか/「説明が正確」だけでは足りない/社会へのメッセージ/生物多様性の何が善なのか?

第6章 事実は一つではないのか?
「大きな物語」への不信/科学は文化の産物で、真理はいくつもある?/虚構論文の罠/通常科学から、コンサルタント科学、ポストノーマル科学へ/「動機づけられた推論」と「暗黙のバイアス」/COVID-19ワクチンの副作用をどこまで許容するか/再現性の危機/温暖化否定派による相対主義の悪用

第7章 どのように事実は偽装されるのか?
何が証明となるのか決めるのは誰?/キリスト教と進化学の蜜月関係/進化学VS創造論/「進化論で説明できない」は神の証明になるか/ダーウィン、マルクス、フロイトへの反発/進化学は物語に過ぎない/『盲目の時計職人』が生んだ誤解/疑似科学も学校で自由に教えられるべき?/“偽装された正しさ”のパッケージ化/再来する“自己修復できない科学”

第8章 偽装された事実にだまされない方法
信用できない科学を見分ける方法/自分はバイアスがないという思い込み/「進化は進歩である」という誤解/科学的に正しい説明を導くために/「迅速に動き、破壊せよ」に潜む暗黙の価値/テック業界のユートピア思想/科学的に正しい判断のための手続き/価値観の対立を緩和する/世界自然遺産という共通のプラットフォーム/AIの対話実験でわかった内省の効用

第9章 “科学的な正しさ”のための立場表明
立場表明/イデオロギーとしての生物学――社会生物学/適応主義 vs 多元論/科学者の思考に影響を及ぼす学派の系譜/自らの系譜を自覚すること/公的な場所で科学を語ること/説明のブラックボックス化を疑う/科学と宗教は対立ではなく、二つの平行した方法/価値観を無視して進化学は応用できない/忠誠・貢献のKPIと副産物/正しさのためには自らの価値観を語らなければならない

定価:1,155円(本体1,050円+10%税)

書籍情報

  • 発売日:2025年10月8日(水)
  • ISBN:978-4-8156-3337-0
  • サイズ:新書
  • ページ数:296
  • 付録:-

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著者紹介

著者・千葉聡

東北大学東北アジア研究センター教授、東北大学大学院生命科学研究科教授(兼任)。1960年生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。静岡大学助手、東北大学准教授などを経て現職。専門は進化生物学と生態学。著書『歌うカタツムリ──進化とらせんの物語』(岩波科学ライブラリー、2017)で第71回毎日出版文化賞・自然科学部門を受賞。ほかに、『進化のからくり──現代のダーウィンたちの物語』(講談社ブルーバックス、2020)、『ダーウィンの呪い』(講談社現代新書、2023)、『進化という迷宮 隠れた「調律者」を追え』(講談社現代新書、2025)、『生物多様性と生態学──遺伝子・種・生態系』(共著、朝倉書店、2012)、『招かれた天敵――生物多様性が生んだ夢と罠 』(みすず書房、2023)などの著作がある。

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