
本編「ゴブリンスレイヤー8」でも舞台となった、王都の北にある死の迷宮。
これは10年前の魔神王との戦いの物語――。
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■君(きみ)
四方世界の北方にある、《死の迷宮》の入口にできた城塞都市。そこにやって来たばかりの只人(ヒューム)の冒険者。
湾刀の術理を修めた戦士。
■女戦士
君らが城塞都市で出会う少女。
既に迷宮に潜ったことのある“経験者”。槍を扱う只人の戦士。
■女司教
君らが城塞都市の酒場で出会う少女。
過去の冒険で、目に傷を負っている。至高神の権能により“鑑定”ができる。
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■従姉
君と一緒に城塞都市へやってきた、君の従姉。
心優しい気質で姉ぶるが、抜けている所もある。後列で采配を振るう、只人の魔術師。
■半森人の斥候
城塞都市にくる途中、君らと出会った冒険者。
目端が利いて、場を取り持つのが上手い。一党の斥候(スカウト)を担う。
■蟲人僧侶
君らが城塞都市で出会う冒険者。
迷宮の“経験者”として、君たちの参謀を務める。交易神に仕える蟲人族の僧侶。
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粗雑な棍棒を手にしてこちらへじりじり迫る姿は、別に間合いを計っているわけではない。
ただいかに同胞を先にけしかけ、自分だけが生き延びるかを考えているのだろう。
その醜悪で身勝手な姿……君とて話には聞いたことがある。間違いはあるまい。
――ゴブリンか!
「ひ、ぃ……っ」
後ろで押し殺したような女司教の悲鳴。気を取られた一瞬、小鬼どもが飛びかかってきた。
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酒場で卓を囲んだ冒険者たちが札遊びに興じるのは、この城塞都市ではままある光景だ。
ここ幾日かの冒険と休息を経て、君たちの定位置となった円卓もそれは変わらない。
店に入ると、兎耳の女給らがわかったような顔をして、にこにことその卓へと導いてくれる。
――もっとも、それは君たちが死ぬまでのことなのだろう。
だから、こんな光景も何度か見ることがあった。
朝に片隅の卓についていた冒険者の一党が、その日の夕方になっても戻ってこない。
次の朝にも円卓が埋まることはなく、翌日には真新しい装備の別の一党がその席を占める。
それすらも、この城塞都市の日常だ。
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――幸の薄そうな娘だ。
君は彼女を見てそう思った。かの有名な『黄金の騎士』亭の扉を潜った時の事だ。
娘は、その片隅で、小さく縮こまるように肩を丸めて座っていた。
薄闇の中、遠目にも金髪であることが見て取れた。小柄だ。衣装からして僧職だろう。
そこにいれば音の海に溺れて、沈んで、そのまま消えてしまいそうな、そんな女だった。
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「ケチな背教徒ね、出て行きなさい」
華奢で胸の薄い儚げな印象を裏切る修道女の言葉が、扉を開けるなり君たちを出迎えた。
「くそっ! 何が背教徒だ、強欲坊主どもめ……!」
迷宮でかけられた呪詛か傷の治療か、あるいは《蘇生》を断られたのだろう。
具足に身を固めた冒険者が仲間を担いで慌ただしく礼拝堂を後にするのとすれ違う。
「ええ、誤解しないでくださいね」
君たちが新たに寺院を訪れた事に気づいたのだろう。
修道女は歓迎するように頭を垂れると、その美しい顔ににこやかで華やかな笑みを浮かべた。
「奇跡を望むにもかかわらず布施を払わない勘違いした者以外なら、我らは温かく迎えます」
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「ああん! こっち来ないでよぉ……っ!」
今にも泣き出しそうな悲鳴をあげて、女戦士が絡みつく粘液の塊を振り払った。
槍の穂先に掬われたスライムが、壁に叩きつけられびしゃりと音を立てて潰れる。
――さて、何匹目であったろうか。
幼子が棒を振り回すように粘菌どもを相手取る女戦士を見ながら、ふと君は思案した。
「もぅ、やだあ……!」
ここまでに結構な数を叩き潰したはずだが、彼女の粘菌嫌いは拍車がかかっている。
もっとも返り血にも似た赤黒い汚液を頭からかぶったその姿は、笑うのも忍びないが。