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宗教は地理から学べ!

宮路秀作:著者

「宗教」×「空間的視点」で見えなかったものが見えてくる!

宗教は地理から見るとおもしろい!

■はじめに

【religion】とは何か?
近代日本が始まる幕末の世において、この言葉にどんな日本語を対応させるかという難問に直面していました。
1858年、江戸幕府は全十四条からなる日米修好通商条約をアメリカ合衆国と締結しました。この不平等条約の第八条に登場する、religionという用語に対応する日本語として【宗法】という言葉が用いられました。当時の宗法とは、各宗派固有の教えや規律を意味する言葉です。
また、同条約では日本人とアメリカ人が互いの【宗旨】(宗派上の信条)をめぐって争論しないよう定められています。つまり幕末の日本人にとって宗教とは、個人の自由な信仰というよりも、特定の宗派に属してその教えやしきたりを守ることを指していたと考えられます。
実際、【宗教】という概念自体が当時の日本にはまだ馴染みが薄く、明治時代に入ってようやく現在のような意味で定着しました。これらの事実は、日本の宗教観が西洋とは異なる独自の歩みをたどってきたことを示しています。

(中略)

各地で誕生した宗教は、それぞれの土地の文化や風土と深く結びついて育まれてきました。最初から普遍性が存在したわけではなく、【地理的要素が色濃く反映】されたものといえます。つまり【地域性】です。
乾燥した砂漠の大地では一つの神を信じる宗教が生まれ、緑豊かな大地や大河のほとりでは多彩な神々への信仰が育まれました。日本列島においても、森羅万象に八百万の神を見出す神道や、仏教と土着の信仰が融合した習俗が長い歴史の中で形成されてきました。

さらに【宗教が広まっていく過程においても、地理的要素が重要な役割】を果たしました。険しい山脈や海は宗教圏の境界となり、交易路や航路に沿って教えが伝播することで新たな信仰が世界各地へと波及していきました。宗教と地理は常に密接であり、両者の関係を理解することは、我々の身近な文化や習慣を再発見するきっかけとなります。

本書では、宗教と地理がどのように影響し合い、人々の価値観を形作ってきたのかを、さまざまな角度からひも解いてみました。ユダヤ教やキリスト教、イスラーム、仏教、ヒンドゥー教など、それぞれが歩んできた歴史や広がりを地理と結びつけて見直すことで、各宗教圏がより立体的に見えてくるはずです。
宗教は歴史を動かし、文化を形作る大きな力です。普段はあまり意識しない【地理】が、実は信仰の誕生や伝播、そして私たちの身近な文化や習慣にも深く影響していると知れば、新鮮な驚きとともに理解が深まるはずです。

本書を手に取ってくださったみなさんの知的探究心が刺激され、より深い理解へと誘われることを願っています。

2025年2月 宮路秀作

■■第1章 地理が描く宗教の世界
■01 「世界宗教」と「民族宗教」の分布を地図で確認する
■02 「宗教」と「地理的環境」の関係
■03 キリスト教とイスラームの「千年戦争」と地理的変遷
■04 都市が宗教の伝播に果たした役割

■■第2章 ユダヤ教は地理から学べ
■05 エルサレムが3つの宗教の聖地になった「地理的特徴」とは?
■06 パレスチナ北部の地理的優位性とシナイの荒野
■07 ユダヤ人はどうやって地理的に拡散したのか?

■■第3章 キリスト教は地理から学べ
■08 キリスト教の地理的拡散と宗派の分布
■09 三十年戦争と宗教地理の変化
■10 カトリックが生んだ大航海時代
■11 なぜ「その地域」にキリスト教文化が根ざすのか?

■■第4章 イスラームは地理から学べ
■12 イスラームはアラビア半島の厳しい気候の中でどう広がったか?
■13 イスラームが海上ルートでも陸上ルートでも広がった理由
■14 宗派の形成・衰退に影響してきた地理的条件とは?
■15 厳しい乾燥気候に適応してきたイスラーム建築とオアシスの水利技術

■■第5章 仏教は地理から学べ
■16 仏教が広まった地域にはどんな地理的特徴があったのか?
■17 仏教の広がりに大きな役割を果たしたシルクロード
■18 大河とともに発展した中国・東南アジアの文明と仏教
■19 山岳地帯で篤く信仰され続けてきた仏教の多様性

■■第6章 ヒンドゥー教は地理から学べ
■22 ヒンドゥー教の広がりとインドの地形の関係に迫る
■21 インドと近隣地域の宗教地理
■22 地理・政治・宗教が絡まり合ったインド半島外縁部の対立

■■第7章 そのほかの宗教も地理から学べ
■23 アニミズムが広がる地理的条件とは?
■24 中国の地理的特性と宗教との関係を見る
■25 北欧神話は過酷な地理的環境が生んだ!
■26 日本固有の民族宗教「神道」と地理的特徴の関係

定価:1,870円(本体1,700円+10%税)

書籍情報

  • 発売日:2025年3月27日(木)
  • ISBN:978-4-8156-2822-2
  • サイズ:46判
  • ページ数:352
  • 付録:-
  • ・「世界宗教」と「民族宗教」は根本的に何が違う?
    ・「宗教」と「地理的環境」の関係
    ・キリスト教とイスラームの「千年戦争」と地理的変遷
    ・都市が宗教の伝播に果たした役割

  • ・エルサレムが三つの宗教の聖地になった「地理的特徴」とは?
    ・パレスチナ北部の地理的優位性とシナイの荒野
    ・ユダヤ人はどうやって地理的に拡散したのか?

  • ・キリスト教の地理的拡散と宗派の分布
    ・三十年戦争と宗教地理の変化
    ・カトリックが生んだ大航海時代
    ・なぜ「その地域」にキリスト教文化が根付くのか?

  • ・イスラームはアラビア半島の厳しい気候の中でどう広がったか?
    ・イスラームが海上ルートでも陸上ルートでも広がった理由
    ・宗派の形成・衰退に影響してきた地理的条件とは?
    ・厳しい乾燥気候に適応してきたイスラーム建築とオアシスの水利技術

  • ・仏教が広まった地域にはどんな地理的特徴があったのか?
    ・仏教の広がりに大きな役割を果たしたシルクロード
    ・大河とともに発展した中国・東南アジアの文明と仏教
    ・山岳地帯で篤く信仰され続けてきた仏教の多様性

  • ・ヒンドゥー教の広がりとインドの地形の関係に迫る
    ・インドと近隣地域の宗教地理
    ・地理・政治・宗教が絡まり合ったインド半島外縁部の対立

  • ・アニミズムが広がる地理的条件とは?
    ・中国の地理的特性と宗教との関係を見る
    ・北欧神話は過酷な地理的環境が生んだ!
    ・日本固有の民族宗教「神道」と地理的特徴の関係

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著者紹介

著者・宮路秀作

宮路秀作(みやじ・しゅうさく)

地理講師、日本地理学会企画専門委員会委員、コラムニスト、Yahoo! ニュースエキスパートオーサー

<地理講師>
代々木ゼミナール(本部校、新潟校)(2025年度)。担当する講座は、全国の代ゼミ各校舎、サテライン予備校にて配信されている。「地理」は「地球上の理」であると実感させ、「地理」を通して現代世界を学び、さらに「なぜ、そうなったのか?」と歴史までもひも解き、深い解釈を与える講義を展開。高校教員向けに授業法を享受する「代ゼミ教員研修セミナー」の講師を長年勤めるなど、「代ゼミの地理の顔」。最近では、中高の社会系教員、塾・予備校の講師を対象としたオンラインコミュニティーを開設、地理教育の底上げを目指して教授法の共有を行っている。

<コラムニスト>
『経済は地理から学べ!』(ダイヤモンド社)の刊行により、地理学の普及・啓発に貢献したことが認められ、2017年度日本地理学会賞(社会貢献部門)を受賞。著作物は30冊(海外翻訳・共著含む、監修本除く)、累計発行部数は25万部を超える。『経済は地理から学べ!』の刊行以来、新聞や雑誌、Webメディアからの取材を頂くことが多く、「地理学の面白さ」「地理教育の重要性」を説いている。またfoomiiにてメルマガを発行し、さらに「Yahoo!ニュースエキスパート」のオーサーとしても活動中で、主に「国際情勢」について寄稿している。

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