著者紹介
言わずと知れたボブ・ディラン初の自叙伝ということで、今まで謎に包まれていた私生活や心情が本人の口から語られている点で、ファンならずとも非常に興味深い。特に、グリニッジ・ビレッジ時代、下積みの生活の中で交わった名もない芸人たちへのいたわりのまなざしや、コロンビアとの契約にこぎつけてはしゃぐ無邪気なディラン。あるいは、20歳やそこらで自分は特別な存在なのだと既に自信満々の様子など、いわゆるディラン研究で語られてきた伝説の姿とは一線を画す「人間味」が感じられる。さらには、世間に背を向け沈黙を守り通したウッドストック時代の痛々しいまでの葛藤も、本人のナマの言葉だけに、より強い実感をもって伝わってくる。また、随所にちりばめられた、ディラン「らしい」詩的表現は心に深く響き「詩人」の姿をそこに見出すことができる。ちょっと残念なのは、精力的な70年代の記述が落ちていること。ただ、この時代はどうやら続刊(Vol 2、Vol 3)でカバーされるらしい。本国での刊行が待ち遠しい限りである。