第1話 失われない世界

おばあちゃんは外国やアメリカのディズニーを「夢の国」として憧れを持っていたけれど、飛行機が苦手で海外旅行をしたことがなく、日本にディズニーランドができたときは「これで海外まで行かなくてもいい」と喜んだそうだ。

いくらディズニーが好きだからといって、ちょっと運動神経に自信があるからって、それだけでディズニーキャラクターになれるわけがない。いや、ディズニーじゃなくたって、どんな仕事だってそこでは本気でがんばっている人がいる。それなのに、私は……。

おばあちゃんは「他人」に抱きしめられたはずなのに、私の髪をなでて「大丈夫よ、麻友ちゃん」と言ってくれた。昔とちっとも変わってないかのように。ボートは、そんな私とおばあちゃんを一つの世界に包み込むように、ゆっくりと流れていく。
第2話 夕暮れの向こう側

僕はご夫婦に話しかけた。もちろん、誰かれなく声をかけるわけではないのだけれど、その夫婦がダッフィーと一緒に寄り添う姿がなんだか特別なものに思えたからだ。

絵の裏には保育士の先生のコメントで「岳人くんの大好きなお父さんが設計した遊園地。岳人くんの夢はお父さんと一緒にこんな遊園地をつくること」と書かれていた。俺は岳人の絵に釘づけになった。幼かった頃の岳人は、工務店を経営する俺の仕事をかっこいいと思っていたのだ。

「かたちだけ立派でも誰にも大切に思われてない建物や場所がなんぼもある。けど、ここは違うんやないか。このディズニーとやらをつくってるのは、岳人、お前たちやな。お前たちのやさしい気持ちがここをつくってるんや」
第3話 海への航海

流れてくる歌声に吸い寄せられるように丘の方に歩み始めた僕は、丘の手前にあるベンチのところでハッとして立ち止まった。
(もしかして泣いている?)
朝日に照らされた横顔には、涙の筋が光って見えた。

(これって、おばあちゃん?)
母にたずねると、驚きながらも懐かしそうに教えてくれたのは、祖母が若かった頃に恵まれない子どもたちの施設を慰問したときのものだという。

その日は沙良が施設でみんなと一緒に初めて歌の発表をすることになっていて、それだけが気がかりだった。ちゃんと歌えるかなと心配する沙良に「お姉ちゃんが見ててあげるから大丈夫」と約束していたのだ。