第1話 虹色のミッキー

ゲストをもてなすための第一歩は、まず「もてなされること」である。そのため、オリエンテーションでは、新人キャストにコーヒーや紅茶をもてなすのだ。

明日になれば、保護者が迎えに来るかもしれない……。そんな期待を胸に、『まーくん』と共に朝を待った。しかし、次の日になっても、その次の日になっても、『まーくん』の親が現れることはなく、そして、身元不明の男児として児童相談所へ引き渡されていった。

そうだ、園長には本当の家族がいなかった。「ここにいるみんなが家族なのよ」と言った園長の言葉は、嘘でもなぐさめでもなく、心からそう思っていた言葉だったんだ。
第2話 真冬の桜ふぶき

すると、入園を強く訴えていたゲストは、お孫さんの手をグイっと引っ張り、晴美に背を向けてこう言った。
「ごめんね、あっくん。このおねえちゃん、とってもいじわるなの。どうしても入れてくれないっていうから、違う遊園地で我慢してくれる?」

私は、一枚一枚の手紙を、何度も何度も繰り返して読んだ。みんなの顔を思い浮かべながら読むうち、涙で文字がにじんできた。そうだ。ディズニーランドは、仲間を絶対に見捨てない世界だった。

「この指輪、晴美のお母さんがデザインしてくれたものらしいんだ。晴美の結婚指輪をデザインすることが、お母さんの夢だったんだって。その夢の続きを、お父さんが叶えてくれたんだよ」
第3話 絆の糸電話

「ええ、まぁ……。でも、僕なんかより優れたキャストはたくさんいますし、田舎でのんびりと暮らした方が、僕に合ってるのかもしれません」
どことなく本心ではないと思われる亮介の発言が、僕は気になった。

東京へ行く前日、僕は遺書を書いた。心の中のすべての愛を吐き出すかのごとく、家族への思いを書きつづった。
すると、僕がいる「支配人室」のドアを、誰かがノックした。

「ウォルトも、こんな言葉を残しています。『安いか高いかなんて心配しなくてもいい。良質かどうかだけを考えればいいんだ。もしそれが十分に良いものなら、人々はその見返りをきちんと払ってくれる』……と」