第1話 約束のパレード

僕は、女の子に「18歳になれば誰でもディズニーのエンターテイナーオーディションを受ける資格ができること、基本的に毎年オーディションがあること、ダンサーさんに手紙を出したいときはパーク内のメールボックスに投函するといいこと」などを教えてあげた。

女性ダンサーさんは音楽を身にまとい、風や光と一つになって踊っていた。観ているひとりひとりの命に元気の火種を投げ込んでいくような、全身からほとばしるエネルギーに打たれ、私はその場を動けなかった。

もちろん、自分の夢は消えたわけじゃない。でも、夢を追うことだけでなく、目の前のゲストの心にキラキラの明かりを灯すことも自分にとって大切な喜びになったのである。
第2話 ティンカーベルの名刺入れ

シェフがコックコートの下のポケットから取り出したのは、懐かしいティンカーベルのイラストが刻まれた特別な名刺入れ。彼は、この名刺入れをいつも肌身離さず持ち歩いているのだという。

どうやら本当にグランマ・サラのキッチンの井戸をふたりで確かめに行って、彼女も食べたかったオムライスを食べることができて満足したらしい。そのことを、わざわざ僕のいるトゥモローランド・テラスにまで戻ってきて報告に来てくれたのだ。

「それに俺、聞いちゃったんです」
「聞いたって、何を?」
「オーナーがここの店、閉めるって言ってたのを。この前、内田さんが休みのときにマネージャーと話してましたよ。聞いてないんですか?」
第3話 喜びという名のキッチン

「僕がキャストをやってたトゥモローランド・テラスのハンバーガーだって、ジューシーでおいしいけど特別な高級さを売りにしてたわけじゃない。でも、ゲストは友人や恋人や家族と一緒にわくわくした気持ちに包まれて、キャストにも笑顔をもらって、それがすごく幸せな味になって感じられたんだと思う。」

(いいか、内田。ゲストにはどんなときも「ノー」とは言うな。ゲストが困っていることや楽しみにしていることならなおさらだ)
ディズニーのキャスト時代、先輩キャストから言われた言葉がどこからか聞こえてきた気がした。

誕生日会の最後には、調理場に入っていた僕やスタッフみんなで木村さんファミリーを囲んで記念撮影もした。撮影を終えると、僕は木村さんから握手を求められた。お母さんの目にはうっすら
涙が浮かんでいる。