第1話 夢の国の落とし物

「若いうちならまだしも、この年で清掃の仕事をしているというのは、ちょっと恥ずかしいと言うか……。娘に恥をかかせないためにも、職場が変わったことを機に、つい嘘をついてしまったんです」

「その時のお父さん、聞いてない振りしてたけど、自分の足元をずっと見てたのよ」
「足元を?」
「お父さんの足元ね、白いはずの裾が、飛び散ったワックスや汚れた水で、灰色になってたから……」

共に指輪を捜すキャスト、そして落としてしまったゲスト、皆が信じる気持ちを共有することで、この指輪に出合うことができた。僕は、この感動を生涯忘れることはないだろう。
第2話 月夜のエンターティナー

・なんと、ゲストが歩行する赤い絨毯の上で、一人のキャストがイビキをかいて寝ているではないか。そのキャストは、増田という五十そこそこの男で、ゴールデンカルーセル(メリーゴーラウンド)を担当している。
・なぜだかわからないが、心など通うはずもない作り物の馬たちを、一瞬愛しいと感じた。そして、レンズの向こうに見える一家の笑顔と、踊るように回る馬たちの姿を見たら、自然と涙が込み上げてきた。あの 90 頭の馬を輝かせることができるのは、俺しかいない。そんな風にさえ思えた。
第3話 魔法のポケット

・すると聡美は、ポケットからカードのようなものを取り出し、男の子に差し出した。
「はい、これあげる。魔法のカードよ」
「魔法のカード?」
「そう。ティンカーベルが、魔法をかけてくれるの」
・聡美は辺りに散らばったポップコーンを、素早くほうきで片付けた。
「片づけた」と言っても、そそくさかき集めている様子ではなく、スティックを持ってしなやかに踊っているような動作だった。その華麗なほうきさばきに、周りで見ていたゲストから拍手が巻き起こった。
第4話 夢の、その先

・『ディズニーランドが日本上陸へ』そう書かれてある小さな記事を見つけたのだ。そして、そこには『キャスト募集』とも書かれてある。
僕は、高鳴る鼓動を感じずにはいられなかった。
・決して手を止めず、ひたすらトイレを磨いているチャック氏の姿を、僕らは茫然と見ていた。言葉は交わされなくとも、そうじに対する魂のようなものを感じた。そうじに対してというより、仕事に対してといった感じだろうか。
輝きを取り戻した床のタイルと共に、僕の胸に熱い思いがこみ上げてきた。