第1話 オレンジ色のラブレター

僕たちカストーディアルの主な仕事は、パークを安全かつ清潔に保つための清掃だが、ゲストに呼び止められ、質問を受ける機会も多い。そのため、ディズニーランドの最寄り駅である「舞浜駅」の終電時間も覚えておくよう、昨日アドバイスしたばかりだった。

チケットを購入しようとして財布を出した瞬間、バラバラッと小銭が床に落ちてしまった。おそらく、駅で切符を買った際、財布のチャックがきちんと閉まっていなかったのだろう。床にしゃがみ、落とした小銭を手探りで探す祖父を見ていて、私は声をかけずにいられなかった。
「おじいちゃん!」

「はい。ちなみに……ガザニアの花言葉は、『あなたを誇りに思う』だそうです」
私は、胸の中が熱くなるのを感じた。そして、祖母が亡くなる寸前に言っていた言葉を思い出した。
『花はね、心と心をつなぐ役割をしてくれるんよ』
第2話 迷子の良心

・「SAKURAI」と書かれたネームプレートの上に、 1 日も早く金色に縁取られたバッジを付けることを夢見て、私はがんばり続けてきたのだ。そして今日、初めて車椅子の団体をガイドさせていただくこととなった。
・レストランに入ると、和也から一通りの事情を聞いたと思われる金田が、和也の肩にそっと手をかけた。
「ほら、和也君。自分の本当の気持ちを陽子さんに話してごらん」
「本当の……気持ち?」
「ああ、和也君たちには、ある計画があったんだ」
第3話 色あせたチケット

しかし、この日の券売窓口はいつもと違った。チケットを購入するために並んでいたゲストが突然激怒し、入園せずに帰ってしまったという。そんな連絡を受けた僕は、すぐさま券売窓口へ向かい、激怒したゲストを対応したキャストから事情を聞くことにした。

よく見ると、あの日、帰ってしまったゲストと一緒にいた女の子だ。私は、口元に人差し指を当て、「シー」と言った。
そして女の子と同じ目線のところまでしゃがみ、あの日聞けなかった質問をした。

ツケだなんて常連ならまだしも、初めて来た客にそんなことを許したら、二度と来ないに決まっている。ましてや、仕事が見つからないなんて嘘かもしれないのに……。
そうこう考えていると、大股開いて座っていた若い男性客は姿勢を正し、店主に深々と頭を下げ、店をあとにした。
第4話 希望のかけ橋

・「あの……つかぬことを伺いますが、ベッドに寝たままの状態で入園することは可能ですか?」
その電話は、ディズニーランドから1㎞ほど離れたところにある病院からだった。
・大きな希望を与えていただき、重ね重ね感謝申し上げます。月日の流れに身を任せてばかりの毎日でしたが、ぜひとも近々お伺いさせていただければと思っております。
また、このたびお手紙を書かせていただきましたのは、」
ここまで読んだところで、部屋のドアがノックされた。