
ナップスター狂騒曲
「聴きたい曲をインターネットで素早く探し出したい」――誰もが抱く夢を実現させたナップスターは、一方で既得権益を守りたいレコード業界と激しく対立することになった。世界を揺るがせたインターネットの革命児の誕生から消滅までを描く。
【目次】
プロローグ――レイヴパーティー
第1章 反逆児たち
第2章 とてつもないアイディア
第3章 会社の誕生
第4章 資金の調達
第5章 西海岸へ
第6章 名声
第7章 レコード業界
第8章 競合相手
第9章 ベンチャー・ゲーム
第10章 ハマー・ウィンブラッド
第11章 ベルテルスマン
第12章 クーデター
エピローグ――革命の後
■著者:
すべては17歳のハッカー青年のアイディアに、強欲な叔父が目をつけたことから始まった。「聴きたい曲をインターネットで素早く探し出したい」という夢を実現させるため、誰とでもファイルを自由に交換できる巨大な可能性を誕生させ、数千万人のユーザーを抱えたトップ企業となったナップスター社がなぜ崩壊したのか。音楽業界との戦い、経営陣の内輪もめ、クレイジーな経営戦略、心身ともに疲れ果てたエンジニアたち、そして敗訴。2002年、ロキシオ社による買収でナップスターは終止符を打たれたが、その思想はグヌーテラ、WinMXなどに受け継がれている。自由にファイルを交換するのは犯罪なのか、革命なのか。世界を揺るがせたインターネットの革命児の誕生から消滅までをリアルに描いた力作。
【著者コメント】
ナップスター社について本を書こうと決意した理由は3つある。
まず第一に、メディアが取り上げていた内容はすべて表面的なもので、驚くほど多くの情報が見落とされていた。とりわけ、ナップスター社を法人化したある人物が果たした役割に関して。その人物は、『タイム』誌と『フォーチュン』誌の表紙を飾った世界一有名なハッカー青年、ショーン・ファニングではない。ショーンのおじにあたり、ナップスター社が生まれたときに、同社株式の70パーセントを保有したジョン・ファニングだ。これまで明るみに出てこなかったナップスター社内部の混乱、裏切り、あつれきに比べたら、レコード業界との裁判など、和やかに見えるほどだ。ナップスターは、消費者が巨大なエンターテインメント業界からコントロールを取り戻す武器となり、急速に普及したが、そのプロセスは同時に、インターネットが発達した社会では、わずか数人の個人起業家が良くも悪くも大きな力を振るうことができることをも、ドラマチックに見せているのだ。
第二の理由は、同社が、インターネット・バブルに浮かれた凡百の企業とはまったく異質であることだ。ナップスター社は、ネットの本質に根ざした革新的な技術を持っていた。ナップスター社のリーダーたちが次々と大きな賭けに出続けた結果、デジタル著作権の侵害、消費者の権利、言論の自由、ネット自体の将来像といった重要な政治経済的問題に関して、どこで線が引かれるべきかという議論がつきつめられていった――こういったことのすべては、理想主義者だったが、まずいアドバイスに耳を傾けてしまった17歳の青年、ショーン・ファニングの精神に端を発しているのだ。
第三の理由は、第二の理由とほとんど矛盾するものだ。ナップスター社は他の新興オンライン企業とは異なっているが、しかしその物語はやはり、インターネット・バブルという、資本主義の最もホットな時点での問題点を浮き彫りにしている。多くの新興企業の場合は、ベンチャーキャピタリストたちが馬鹿げた事業に投資したわけだが、ナップスター社の場合は、投資家たちは「違法性を認識した上で」大金を注ぎ込んだのだ。ナップスター社の物語は、正確に読めば、かつてない速さと規模で技術を普及させるという目的で殺到した金が、まさにその技術の進展を阻害し、残酷なしっぺ返しをもたらしたというものだった。