[Si新書]身近な野菜の奇妙な話
もとは雑草? 薬草? 不思議なルーツと驚きの活用法があふれる世界へようこそ
たびたび食卓にのぼる、お馴染みの野菜。
あるいは最近、街のお店や郊外の畑で見るようになった新顔の野菜。
体によさそうだと期待される場面も増えています。
ただこれらはいずれも、”世にも奇妙な生命”。
祖先は世界各地の雑草、野草のたぐいです。
その恐ろしい生命力、美味なる実や葉、全容未解明の健康効果に、人は幾星霜も魅惑されています。
歴史に隠されたいわく、陽なたぼっこの裏側で作られる成分、予想外の実態や利用法……。
本書では、そんな野菜の摩訶不思議に迫ります。
当たり前のようにあって、実は底なしの野菜ワールドを、あまたの写真とともにご案内。
■目次:
●野菜世界への招待状
●38の野菜にまつわる86話
・アーティチョークの仲間――美女とお酒とあなたの肝臓
・イチゴの仲間――さよならメラニン、こんにちは白イチゴ
・エンダイブ――古典野菜のカオスな調べ
・オクラ――旬が短い美のネバネバ
・カブ――1階は食物繊維、2階はビタミン各種でございます
・カボチャ――カボチャ大王の狂騒曲
・キャベツ――お母さん、赤ちゃんはどこから来るの?
・キュウリ――夜明けの畑ですっぽんぽん
・ケール――さても美しき抗酸化物質の神殿
・サツマイモ――葉っぱとツルが”医者殺し”
・ジャガイモ――世界でもっとも人気の毒草
・セロリ――愛、ローマへと続く道
・ソラマメ――彼女をソラマメ畑に連れてゆけ!
・トウガラシ――気になる樹に生る原種の蠱惑
・トウモロコシ――とっても愉しい三姉妹農法
・トマティーヨ(食用ホオズキ)――悪性腫瘍を蹴散らす天才?
・トマト――猛毒の”ラブ・アップル”
・ニンジン――おねしょ、治します
・ニンニク――戦争と文明のエンジン
・パースレインの仲間――つるっと美味しい天才錬金術師
・パセリ――生誕そして終焉のシンボル
・ビートの仲間――甘い夢はビートにのって
・ホウレンソウ――美味しい秘訣は”5倍量”
・ラプンツェル(マーシュ)――”魔女の野菜”のメルヒェン
・レタスの仲間――人生を彩る”野菜のいる暮らし” ……ほか
-「はじめに」より-
私が仕事場としているハーブガーデンには、小さな畑がある。
のどかな陽気のなか、地べたで四つん這いになって野菜の虫取りに興じる。
するとお声がかかる。
「あら。ハーブのお庭なのに、お野菜もやってるの?」
泥まみれの皮手袋で顔を拭い、せっせと集めたお邪魔虫どもを雑木林の向こうにうっちゃると、はてさてどこからお話ししたものかと、悩む。
とても多くの来園者が、同じ疑問を口にする。
よほど奇妙に映るらしい。
野菜の多くはハーブである。
薬草としての歴史をもち、原産地の周辺では現代でも薬効が尊ばれ、盛んに利用される。
その使われ方は実にユニーク。
同じ野菜でも、世界各地でまるで違う。
文献をひもとき、人々の声に耳を傾ければ、古の迷信やおまじないの数々、奇っ怪な伝説、さらに魔女や魑魅魍魎まで跋扈する世界が広がる。
本書では、ここに現代科学の知見──舌を噛みそうな有機化学成分や、最新の学術情報をもち込むことで、ひと味違った野菜の愉しみ方をご提案してみたい。
さて、野菜とはどんな生き物だろうか。
その出自は、野辺に生える雑草・野草のたぐい。
世界には、まだ見ぬ野菜たちが列をなしており、少しずつながらも”新しい美味”が我が国にやってくる。
アーティチョーク(p.18)は、12年前ならとても珍しい植物であったけれど、いまでは庭先や畑の片隅で育てる人がずいぶん増えた。
原産地のヨーロッパでは八百屋に並ぶ”普通の野菜”である。
やはりヨーロッパの定番野菜であるパースレイン(p.142)は、むかしから日本に棲みつき、いまも道ばたにいるモーレツ雑草。
里山では”夏バテ防止野菜””真冬に食べる保存食”とされてきた。西洋では軽く茹でてサラダで食べるが、日本人は茹でてから酢の物にして愉しむことが多い。
これが実に理にかなっているのだ!
お馴染みの野菜でも新しい品種、新しい活用法が生み出される。
野菜世界はいつだって変化にあふれている。
ひとつひとつを味わい、愉しむうちに、自然界の醍醐味まで賞味できることは、とても幸せである。
なお、本書は国内外の学術論文や専門書を礎にして、有望な機能性成分についてもたくさん紹介している。
ただし、いまのところ野菜の”あなたの健康に及ぼすであろう影響”については、その多くが未解明であることをはっきりとお伝えしておきたい。(後略)
2018年2月末日 筆者