9名の識者が語る人工知能と「こころ」

・松原仁(公立はこだて未来大学 副理事長)
・一倉宏(コピーライター)
・伊藤毅志(電気通信大学准教授)
・鳥海不二夫(東京大学大学院准教授)
・三宅陽一郎(ゲームAI開発者)
・糸井重里(「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰)
・近藤那央(ロボットアーティスト)
・山登敬之(精神科医)
・中野信子(脳科学者)
AIがヒトになる日

人とともに生活をするロボットが人間と似た形のヒューマノイドになったのは必然だと思います。我々が人間型のロボットの実現を目指すのは、ロボットの研究を介して人間を知りたいという関心ももちろんあるのですが、何よりも人間の住んでいる社会が、人間向きに作られているからというのが一番の理由です。(松原仁)
人工知能は言葉を話せるか

先輩にあたる仲畑貴志という名コピーライターが書いた丸井のギフトのコピーに、「好きだから、あげる。」というものがありました。理由は「好きだから」、その人に「あげる」。コピー(広告文)は近道を探すものですが、この最短距離は衝撃的でした。おそらく、AIがこのコピーを書くことも可能です。ただし、何万という解の1つとしてですが。(一倉宏)
AIでゲームは強くなるのか

AIの何が便利かというと、その時々の局面に対して「こちらのほうが何点良い」とAIの評価を数値的に見せてくれる点です。今のコンピュータは一般に、ほとんどの局面で人間よりも正確に評価することができます。そのAIが、その局面を数値的に評価してくれるわけです。人間はAIが示す結果から、その局面がどうして良いのかを考えることで、良い局面とそうでないものを、正確に分類できるようになったのです。(伊藤毅志)
AIは人間を説得できるのか

私は現在、人工知能に人狼ゲームをプレイさせることを目指した「人狼知能プロジェクト」の代表を務めています。人狼ゲームは対話で進むゲームですが、その対話の中で特に難しいのが、文脈を読むことです。人間は非常に多くの言葉を省略します。たとえば、「さっき言っていたアレ、何よ」と言われた場合、人工知能には「さっき」や「アレ」が何を指しているのかわからないのです。(鳥海不二夫)
ゲームから現実へ放たれる人工知能

今の人工知能は西洋哲学の上に構築されています。知能というのは知的能力であり、その能力をコンピュータによって実現するという立場が極めて強い。東洋の思想は、それとは異なる人工知能、あるいは知能の捉え方をたくさん持っているので、西洋哲学の考えとは逆の側から探求することによって、西洋哲学で欠けている設計思想を浮き彫りにしたいと思っています。(三宅陽一郎)
AIは道具であってほしい

AIがどのように進化していけばいいのか考えてみると、ぼくはAIが機械とかシステムというよりも「道具」として扱えるものになるといいと思っています。道具という言葉がすごくしっくりくるのですよね。インターネットも道具です。道具なのに、無限の可能性があるかのように言われる。コンピュータ、インターネット、AI……。世界を変えてしまうのかもしれないけど、結局は道具として使われて、人々の暮らしに溶けていくのがいちばんいいと思う。(糸井重里)
「生き物らしさ」に必要なのは「痛み」

「AIがより生き物らしくあるためにはどうすればいいか?」という議論になることがあります。このような議論でのキーワードは「身体に伴った知性という意味での身体知」というものです。つまり、身体知は身体と五感がないと得られないということです。そして私自身の関心は、ロボットの形状によって、それぞれどのような身体知を得ていくのかという点にあります(近藤那央)
精神医療にAIを活かす

脳は過去の経験を記憶として蓄積し、新しい感覚入力をスムーズに受け入れられるような「予測モデル」を構築している。この「予測モデル」に照らして、入力情報のふるい分けを行い、自分にとって必要なものだけを選択し、刺激に対して適切な出力ができるように制御されているのです。もしも、自閉症の特性をこうした計算論的モデルで説明できるとしたら、AIを自閉症の人の支援に用いる道が拓けてくると思いませんか。(山登敬之)
誤解だらけのAI論

人間の脳の中で高次機能を担っている場所は、前頭前皮質と、縁上回、角回を含む頭頂・側頭連合部と呼ばれる領域です。ここは時間感覚とともに時空の広がりを認知する場所だろうと言われています。面白いことに、この領域は時間感覚や道具の使用、空間認知だけでなく、暗喩(メタファー)などの高度な言語理解にも関わっていることがわかっています。少なくとも今のAIには暗喩が理解できないようですが、どういう関連があるのかは未知ではあるものの、AIに暗喩を理解させようとするには、時間感覚も同時に実装する必要があるのかもしれません。(中野信子)