
量子生物学が対象としている生命現象は多岐にわたる。電子がどのような法則に従うかや、原子のなかで電子がどのように分布するかを記述することで、化学、物質科学、エレクトロニクス全体の基礎をなしている。その数学的な法則は過去半世紀に実現したほとんどの技術的進歩の根幹をなしている。本書ではそのような生命現象の例として、酵素作用、光合成や呼吸、嗅覚や磁気感覚、遺伝を取り上げている。
地磁気

地球全体を巨大な棒磁石に見立て、南極から磁力線が出て外側に広がって、ループを描いて北極に入っていくとイメージしてほしい。両極近くでの磁力線の方向は地面とほぼ垂直だが、赤道に近づくにつれて傾いてきて、地面とほぼ水平になる。そのため、磁力線と地面が作る角度(伏角)を測るためのコンパス(伏角コンパス)を使うと、極の方角と赤道の方角区別できるが、北半球と南半球で磁力線は同じ伏角を示すため、北極と南極を見分けることはできない。
地形を変える

一般的な化学物質が安定なのは、分子の容赦ない動きでも結合がめったにきれない。地形の起伏にたとえると、反応物分子が生成物へ変換するには、エネルギーの山を登らなければならない。その山を登るのに必要なエネルギーは熱によって与えられ、それによって原子や分子の運動が加速され振動したりする。
量子トンネル効果

音が壁を通り抜けるのと同じように、乗り越えられそうにない障壁を粒子が簡単にすり抜けてしまうという奇妙な量子プロセスである。もしこのボールがたとえば電子で、山が反発力によるエネルギー障壁だったとしたら、波動としてもっと効率の良い方法ですり抜ける確率が少しだけある。
二重スリット実験1

単色光(ある特定の波長を持つ)を2本のスリットに向けて当てると、それぞれのスリットがスクリーンの反射側に対して新たな光源として作用する。光は波動としての性質を持っているため、それぞれスリットを通過するときに広がり、円形に広がる波が重なり合って干渉し、背後に縞模様ができる。
二重スリット実験2

スリットめがけて銃弾を次々発射すると、光の場合に現れた波動的な振る舞いとは違い、粒子的な振る舞いを見せる。後ろのスクリーン当たった1個1個の銃弾は、どちらか一方のスリットを通過したのであって、両方を通過したはずはない。後ろのスクリーンには、複数の帯からなる干渉パターンではなく、それぞれのスリットに面した場所に2本の細い線ができる。
DNAのらせん構造

糖とリン酸からなる背骨からできており、そこに実際のメッセージ、グアニン、シトシン、チミン、アデニンという核酸塩基の列が乗っかっている。ワトソンとクリックは、この一次元の列がコードのなっていることに気づき、それこそが遺伝コードにほかならないと提唱した。 2つの塩基をつないでいる水素結合(共有されている陽子)は点線で示されている。